減圧症を予防するには

減圧症は、体内に溶け込んだ窒素が急激な圧力変化で気泡になり発症するので、ゆっくりと浮上する、ダイビング後にすぐに航空機に乗らないなど、窒素をゆっくり体外に放出していくことが発症リスクをおさえることにつながります

しかし、肥満や喫煙などの生活習慣やその日の体調によっても発症リスクが変わるなど、個人差があるという報告もあります。(第44回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 教育講演・減圧症にならない潜り方 −減圧症の発症に影響する因子と予防方法−より)

自分は大丈夫だろうと過信せず、ダイビング前後は慎重に行動するようにしましょう。

ダイビング前の減圧症予防

  • 疲れをとる
    疲れて体調が悪いとダイビングも楽しめません。前日はたっぷりと睡眠をとっておきましょう。
  • 水分を多めに補給する
    脱水症状も減圧症のリスクを高める可能性があります。特に飛行機で移動した当日にダイビングをする場合、機内が乾燥しているため脱水症状気味の場合も考えられます。
  • アルコールは飲まない方が賢明
    アルコールは利尿作用があり脱水症状になってしまう可能性がありますので控えるのが賢明です。

ダイビング中の減圧症予防

  • 急浮上しない
    安全な浮上速度は1分間に9m。これは思っているよりもかなり遅いスピードなので、慣れないうちはインストラクターやコンピュータを見ながら浮上するようにしましょう。
  • 水深5mで3〜5分の安全停止をする
    体内から窒素が排出されるスピードは遅いため、水面に浮上する前にできるだけ多くの窒素を抜いておくために安全停止は必須です。

ダイビング後の減圧症予防

  • ダイビング後すぐに飛行機に乗らない
    すぐに飛行機に乗って気圧の低い上空に行くと減圧症のリスクが高まります。詳しくはダイビングしたあとは何時間で飛行機に搭乗できるの?で書きましたので、ぜひご覧ください。
  • ダイビング後に帰る時はできるだけ山道を選ばない
    ダイビング後に山岳地帯のホテルなどに宿泊しない

    これも気圧の低い場所に行かないようにするためです。関東地方では、伊豆でダイビングすることが多いと思いますが、ダイビング後に箱根の山を超えるとき減圧症を発症した例もあるようです。
    (箱根峠は標高が800m以上あり危険性が高い)

こんな時に要注意!減圧症の代表的な症状

減圧症は、皮膚や関節、筋肉に症状の現れるI型減圧症と、呼吸器や中枢神経などに症状の現れるII型減圧症に区分けされます。

I型減圧症の症状

  • 皮膚型:皮膚のかゆみや発疹などが出てくる
  • 筋肉関節型(ベンズ):関節や筋肉が痛くなる

II型減圧症の症状

  • 呼吸循環器型:胸が苦しくなる、息苦しくなる
  • 脊髄型:手足がしびれる、身体がだるくなる
  • 頭部型:頭痛や頭がぼーっとする
  • 内耳型:めまいや耳鳴り

気泡が発生した場所や気泡の量によって自覚症状なども異なりますが、レジャーでダイビングをする人で多い症状は軽症のII型であると言われています。

これらの症状は、ダイビングが終わって15分〜12時間の間に現れることが多いと言われていますので、ダイビングが終わって上記のような症状を自覚したら、すぐにインストラクターや医療機関に相談しましょう。

応急手当

減圧症の応急手当には、水分補給と酸素吸入が効果的。水分補給は血流傷害を防ぐために役立ちますし、酸素吸入は減圧症の症状を和らげるのに役立ちます。

しかしなによりも、すみやかに医療機関へ連絡し医師にダイビングの状況やダイバーの症状を伝え、指示を仰ぎましょう。

軽症だと思われたとしても時間が経つにつれて重症化する例もありますので、必ず医師の指示に従って応急手当てを行ってください。

減圧症の治療方法

減圧症の治療は、再圧治療(高気圧治療・高気圧酸素治療)という方法で行います。

減圧症は自然治癒することはありません。時間の経過と共に症状が悪化したり、再圧治療の効果を下げたりすることもありますので、いち早く再圧治療のできる医療機関で治療を受けてください。

再圧治療のできる医療機関

東京医科歯科大学の高気圧治療部が有名ですが、全国に再圧治療のできる医療機関はありますので、いくつか紹介します。

DD NETでも再圧治療のできる医療機関を検索することができますが、ダイビングショップに最寄りで再圧治療のできる医療機関を聞いておきましょう。

再圧治療とは

再圧室(高圧チャンバー)で体に圧力をかけ、気泡になった窒素をもう一度血液中に溶け込ませます。そのあと窒素が血液や組織内で気泡にならない速度で、ゆっくりと大気圧まで減圧する治療方法です。

Source:亀田メディカルセンター 亀田総合病院 スポーツ医学科 Credit:www.kameda.com

症状によっても異なりますが、何度も高圧チャンバーに入って治療をしなくてはいけない場合もあり、治療費も1回数万円かかります。

減圧症の原因

重症の場合は命の危険もある減圧症ですが、発症する原因と予防策を知っておけば、むやみに怖がる必要はありません。

減圧症の原因

私たちがダイビングの時に呼吸に使っている空気は、約78%が窒素で残りの約20%が酸素で構成された混合体です。

酸素や窒素は肺を通じて体の中に取り込まれます。人間の体には窒素は不要なもので、使われることはありませんが、体内には一定量の窒素が血液などに溶け込んでいる状態です。

ダイビングで体に水圧がかかると、レギュレーターから吸う空気の圧力も高まります。
「液体中に溶解する気体の量は、その気体の分圧に比例する」というヘンリーの法則によって、ダイビング中は水面にいるときより多くの窒素が血液中に溶け込んでいきます。

つまり、水深が深ければ深いほど体内に貯めておける窒素量が増加するということです。
水深20mの方が海水面にいる時よりも多くの窒素を体内に貯めておくことができる

海面に浮上していくと水圧は下がり、体内に溶け込んでいた窒素は血液から肺に運ばれて、呼吸によって体外に放出されます。

しかし急浮上をして水圧が一気に下がると、血液や体内の組織に溶け込んでいる窒素が、液体に溶けた状態でいられなくなり、小さな気泡になってしまいます。

急浮上すると血管や体組織内に窒素の気泡ができてしまう

この気泡が血管を塞いでしまったり、組織を圧迫したりして発症するのが減圧症です

参考文献

DD NETドクターからのアドバイス 減圧症の対処方法
第44回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 教育講演・減圧症にならない潜り方 −減圧症の発症に影響する因子と予防方法−

この記事を書いた人

  • 井上 憲作
    SNSIダイブガイドを2018年7月に取得。 海より山が好きと公言していたが、2017年ダイビングと出会い「どハマり」し、すっかり海好きになりました(笑)

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